SPC船主と親会社(運航会社)
社長は減価償却を理解していない?
当社はSPCで20億円を年利3%借入し、船齢5年の中古船を20億円で取得、10年定額償却としたうえで、親会社(運航会社)が5年間Time Charter運航しています。SPCのHire Baseは、減価償却費・支払利息・船舶管理費・保険・税金を控除しても赤字とならず、CF上も破綻しない水準で設定されています。 5年後(船齢10年)に簿価10億円となり、10億円の買い手がいるため売却稟議を起案しましたが、社長は「簿価が下がったのは親会社がHireを払った結果であり、10億円売却は買主に10億円を提供するに等しい」として却下しました。私は社長に減価償却の概念及び親会社とSPCの役割を繰り返し説明しましたが、ご理解頂けませんでした。
解説
あなたの問題意識は妥当であり、この事例における社長の判断は、会計およびファイナンスの基本的な考え方と整合していないと考えられます。今回のスキームでは、SPCが20億円を借り入れて船舶を取得し、10年定額で減価償却を行い、その船舶を親会社がTime Charterで5年間使用しています。SPCが設定しているHire Baseは、減価償却費、支払利息、船舶管理費、保険、税金を控除しても赤字とならず、かつ借入金の返済を含めてもキャッシュフローが破綻しない水準であると明示されています。この前提に立てば、SPCは自立した事業体として成立しており、親会社がSPCを資金的に下支えしている事実はありません。
それにもかかわらず、社長は「簿価が20億円から10億円に下がったのは、親会社がHireを支払ってきた結果であり、親会社が10億円を負担したのと同じだ」と言われたそうですが、社長の考えは、減価償却の非資金性と、親会社とSPCの役割分担を混同したものです。簿価が低下した直接の理由は、取得原価を耐用年数に配分する減価償却を5年分計上したことにあります。減価償却は会計上の費用認識であって、親会社が現金を拠出したことを意味するものではありません。親会社が支払ったHireは、あくまで船舶を使用して運航事業を行うための対価であり、資産価値を引き下げるための支払いでも、将来の買主に価値を移転するための負担でもありません。
また、SPCのキャッシュフローが問題なく回っているという前提のもとでは、減価償却費相当額のキャッシュは、元本返済などを通じてSPC自身の財務構造の中で処理されているに過ぎず、それをもって「親会社が10億円を負担した」と評価することは論理的に成り立ちません。仮にSPCに借入金があり、その返済によって手元現金が残っていなかったとしても、それはSPCが自己の債務を返済した結果であり、親会社が第三者や買主のために価値を提供したことを意味するものではありません。
以上を踏まえると、社長の「10億円で売却することは買主に10億円を提供するのと同じだ」という主張は、減価償却の概念と、SPCと親会社の経済的役割を正しく理解していないことに起因するものと考えられます。その意味で、あなたが感じている違和感、すなわち「社長は減価償却の概念および親会社とSPCの役割分担を理解していないのではないか」という認識は、会計・ファイナンスの観点から見て十分に合理的であると言えるでしょう。
実務経験に基づく参考情報(内容の正確性は保証されません) / Reference Information Based on Practical Experience
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