まえがき

 私は 、昭和五十二年イースタン・カーライナー株式会社( 以下 ECLと略称する )設立以来 、二十二年間 、社長としてその経営に当たった。第一次オイルショック後の海運業界苦難の時代に、八人のメンバーと三隻の小型  PCC( 自動車専用船)をもって発足したECLであったが、一時は運航船腹100隻、年間輸送量八八万トンにも達し 、いちおう中堅海運会社の体をなすに至った。

 この間、社長としていかなる理念をもって経営に当たってきたか。それは、ひとくちに言えば「人間中心主義 」による 、良い会社づくりにあった。私は長年にわたり持ち続けてきたこの経営理念を「ECL組織論」として社内に示し、またさらに年頭、創立記念日等、節目節目の時に、その考え方を同様社内にアピールし実践してきた。先般当局より「ECLの今日までの経営戦略について 」と題して陳述の機会を与えられ、ECL創立以来 、社長時代の軽営を顧みることができたのは何よりであった。

 本書はこれらを整理し、ありのままの姿にまとめたものである。さて、戦後の日本経済は、壊滅的どん底状態から這い上がり、日本人特有の勤勉さと技術力、優れた日本的経営が実を結び、一九六〇年代の高度径済成長時代を経て、経済大国日本と言われるまでになった。

 この日本人特有の勤勉さと優れた日本的経営とはいかにして培われてきたのであろうか。それは、日本古来の歴史的伝統的文化の中に育まれ、日本の風土に定着しつつ、江戸時代の寺子屋教育を経て 、明治以後の近代化の過程において成熟し 、戦後の高度経済成良時代へと受け継がれてきたものと言えよう。

 この日本的経営に象徴されるものが、年功序列と終身雇用制である。しかしこれは一時期 、欧米的経営に比較し 、日本的経営の弱点とも見なされたが 、その後その真価は遺憾なく発揮されるに至ったのである。

 筆者長年の経営理念である「人間中心主義経営 」は、この日本的経営と同根のもので 、一層その真髄 に迫るものと言ってよい。しかして、現 在の日本経済が直面している問題は何であろうか。バブルの崩壊、金融ビッグバン、経営のグローバル化、と環境の大きく変転するなか、否応なしにリストラの波をかぶり、第二次産業革命ともいわれる、IT化( 情報通信技術 )の時代に入りつつある。

 ここにおいて再び 、この年功序列・終身雇用なる体制 にメスが入れられようとしている。この日本的経営は工業化時代にはマッチしたが、これからのIT時代には無用の長物、過去のものとして、これを壊すことこそが、新しい時代の体制に沿うゆえんであるかのごとき論調である。

 しかし私は思う。「易不易の理」ということを。易とは時代の変遷 、情勢の変化に応じて変わるもの、また積極的に変えてゆくべきものを言い、不易とはいかなる場合も決して変わるべからざるもの、また変えてはならないものである。

 新しい時代を生き抜くためには、新しい生き方に徹する必要がある。今、その方向へ向かっての大胆な発想の転換とその実行が特に期待されるわけであるが、その新しい生き方の中に、不易の部分があることを忘れることがあってはならない。本書により、その不易のものが何であるかを理解されるならば、何よりの幸いである。



本書は2000年9月15日に出版された「ECL組織論(経営する心)」からの抜粋です。