AI との会議議事録
日本の油濁対策
日本に日本版USCOFRがないのはなぜ?
日本政府が、米国のUS COFR(Certificate of Financial Responsibility)のような制度を採用していないのは、油濁事故に対する責任・補償の在り方について、米国とは異なる制度思想と政策判断を一貫して選択してきたためである。
まず、日本は油濁事故に関する責任と補償について、国際条約に基づく統一的な制度を中核に据える立場を採っている。具体的には、1992年の油濁民事責任条約(CLC)、国際基金条約、さらに追加基金議定書を組み合わせた国際補償スキームを受け入れ、これを国内法である「船舶油濁等損害賠償保障法」によって実施している。この制度では、油濁事故が発生した場合、まず船主が厳格責任に基づいて賠償責任を負い、その責任額を超える損害については、国際基金および追加基金が段階的に補償する仕組みとなっている。費用負担は船主と油荷主に国際的に分散され、特定の沿岸国が単独で負担を背負う構造にはなっていない。日本はこの国際補償体制を「十分に機能する制度」と評価し、その内部で最大級の拠出国として制度を支える立場を取ってきた。 [imo.org], [iopcfunds.org]
これに対し、US COFRは、米国が国際条約型の枠組みとは距離を置き、国内法(1990年米国油濁法:OPA90)に基づいて構築した国家主導型の制度である。米国では、油濁事故が発生した場合、原因や過失の有無の確定を待つことなく、連邦政府が直ちに油の除去や環境回復措置を実施することを制度の前提としている。そのため、事故直後に政府が確実に使用できる資金が、米国法の下で直接担保されていることが不可欠と考えられた。この要請に応えるために、米国政府が承認した保証人による財務保証を条件として発行されるUS COFR制度が導入された。
一方、日本の油濁補償制度では、国家が事故直後の対応資金を常に自ら前払いすることは制度上予定されていない。基本的な対応主体は船主およびその保険者であり、国や自治体は行政的・補完的な役割を担うにとどまる。強制保険制度、直接請求権、指定保険者制度といった仕組みによって、実務上の賠償資力は確保されていると判断されてきたため、国家がUS COFRのように「政府自身のための財務保証制度」を新たに構築する必要性は低いと考えられてきたのである。 [mlit.go.jp], [japanesela…tion.go.jp]
さらに、日本がUS COFR型制度を採用しない背景には、国際海運国としての立場もある。日本が独自の国内COFR制度を導入すれば、他の沿岸国も同様の制度を設ける可能性が高まり、国際航海に従事する船舶に対する規制負担が国ごとに累積するおそれがある。日本はこのような規制の断片化を避け、国際的に統一された責任・補償ルールを維持することを重視してきた。その結果、国際条約体制への参加と強化を通じて対応するという政策判断が選択されている。
以上のように、日本政府がUS COFRのような制度を持たないのは、制度の欠如や不備によるものではなく、国家が前面に立つ米国型モデルではなく、国際条約と民間保険・国際基金を軸とする分散型補償モデルを意識的に選択しているためである。これは、日本が国際補償制度の「利用国」ではなく、「制度を支える当事者」として位置づけられていることの表れでもある。
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