ロイズ投資は、なぜ「長く付き合う投資」なのか
――損をする年があっても、成り立つ理由――
第2回では、再保険をかける保険会社が、同時にロイズ市場で再保険リスクに投資している理由を見てきました。再保険は守ってもらう仕組みであると同時に、保険料として集めた資金をどう運用するかを考える場でもある、という話です。
ここまで来ると、次に浮かぶ疑問はこうでしょう。
「それでも、再保険の世界は大きな災害が起きれば損をするのではないか。そんな不安定なものに、なぜ長くお金を出し続けるのか」と。
この疑問も、きわめて自然です。実際、ロイズ市場では、毎年きれいに利益が出るわけではありません。大きなハリケーンや地震が起きた年には、シンジケートが大きな損失を抱えることもあります。短い目で見れば、「今年は失敗だった」と感じる年もあるでしょう。
それでもロイズ投資が成り立ってきたのは、保険というビジネスが、ほかの産業とは少し違う時間の流れを持っているからです。保険は、値段を先に決め、結果をあとから受け取る商売です。そして、その結果が悪ければ、次に売るときの値段を上げることができます。
大きな災害が起きると、再保険料は上がります。リスクが現実のものとして意識されるからです。つまり、損をした年のあとには、収益が改善しやすい年がやってくる。この波の繰り返しが、保険の世界ではごく当たり前に起きています。
ロイズ市場が面白いのは、この調整が一社だけでなく、市場全体で起きる点です。無理な引き受けを続けて損を出すシンジケートは、やがて規模を縮めるか、撤退を迫られます。一方で、堅実な引き受けを続けてきたところには、資本が集まります。こうして市場全体の質が、時間をかけて少しずつ整えられていきます。
投資家にとって重要なのは、「毎年必ず儲かるかどうか」ではありません。むしろ、「悪い年があっても、最終的に立て直せる仕組みがあるかどうか」です。ロイズ市場には、価格の調整、資本の移動、引き受けの見直しといった仕組みが、長い時間をかけて組み込まれてきました。
第2回で触れたように、保険会社がロイズに投資するのは、単に運用先を増やすためではありません。自分たちが日々支払っている再保険料が、どのような波を描きながら利益や損失に変わっていくのかを、内側から確かめる意味もあります。その意味で、ロイズ投資は短距離走ではなく、長距離走に近い投資だと言えるでしょう。
三百年以上続いてきた市場は、毎年の成功だけで生き残ってきたわけではありません。失敗を織り込み、時間を味方につけることで、結果として成り立ってきました。ロイズ投資の本質も、ここにあります。
連載の締めとして
ロイズとは、保険を売る場所ではなく、保険リスクと資本が長い時間をかけて向き合う場所です。
再保険をかける保険会社が、同じ市場で投資家としても振る舞う。その姿は、一見すると不思議に見えますが、保険という商売の時間軸で考えれば、ごく自然な行動です。
短期の損益ではなく、波を越えた先を見る。
ロイズ市場は、その考え方を、もっとも分かりやすく教えてくれる場所なのかもしれません。
実務経験に基づく参考情報(内容の正確性は保証されません) / Reference Information Based on Practical Experience
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