減価償却と元本返済の話
「勘定合って銭足らず」
今でもこの言葉を聞くと、
若い頃に社長から浴びせられた、あの一言を思い出します。
あれは、私がまだ駆け出しだった頃の話です。
ある日、社長からこんな指示が出ました。
「この船の Hire Base、計算してみろ」
当時の私は、やる気だけは人一倍。
財務といえばPL(損益計算書)だと信じて疑わず、
一生懸命、数字を積み上げました。
売上を置いて、
コストを引いて、
減価償却費もきちんと入れて……。
「よし、黒字だ」
我ながら、なかなか良い計算だと思いました。
これは褒められるだろう――そう思って、意気揚々と社長のところへ。
ところが、資料に目を通した社長は、
ほとんど間を置かずにこう言ったのです。
「……勘定合って銭足らず、だよ」
はい、終了。
正直、その瞬間は何を言われたのか分かりませんでした。
数字は合っている。
利益も出ている。
どこがダメなんだ、と。
社長は続けて、淡々と説明しました。
「減価償却より、借入金の元本返済のほうが多いだろ?」
そのとき、はじめて気づきました。
PLだけを見て安心していた自分と、
現金の動きを一瞬で見抜いていた社長との、決定的な差に。
帳簿の上では黒字。
でも、実際のお金は出ていく。
なるほど、
これが「勘定合って銭足らず」か、と。
若かった私は、
少し悔しくて、少し恥ずかしくて、
でも今思えば、とてもありがたい一言をもらったのだと思います。
数字は嘘をつきません。
ただし、「どの数字を見るか」で、見える世界はまったく違う。
あの日の社長のひと言は、
そのことを、これ以上ないほど端的に教えてくれました。
今でも、数字を見るたびに、
ふとあの言葉が頭をよぎります。
「勘定合って銭足らず」
本当によくできた言葉だな、と。
実務経験に基づく参考情報(内容の正確性は保証されません) / Reference Information Based on Practical Experience
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